文と写真/石亀泰郎 |
デンマークには森を幼稚園にして毎日通っている子どもたちが大勢いる。その様子を本にしてから、いろいろな感想を貰う。年配の人は「日本でも昔はヤブコギなんかして遊んだなあ」と、懐かしそうな顔の浮かぶ手紙が多い。 森は身体を鍛える。でも、それだけではない。保育者が助けられるのは森が子どもの個性を育てるところなのだ。
デンマークの保育者に「保育で一番大切なのは何ですか」と聞いたら、間違いなく「子どもの個性を育てること」と答える。「では、個性はどう育てるの」と聞いたら……。
森の幼稚園卒のぼくが替わりに「森のなかでほったらかしておくことですよ」とナイショで答えたい。
子どもたちは森に入ると、木に登ったり、小径をたどって木の実を拾ったり、木の根を掘って虫をつかんだり、興味のおもむくままに勝手に楽しんでいる。ぼくなんか保母さんは何もしていないじゃないかと悪態をつきたくなるほどだった。でも、目だけは子どもの様子を追っていた。
ぼくが写真絵本にした百個も帽子を持っている三歳のイエペなんか、一日中帽子をかぶっていた。昼食を食べるときだって、でんぐり返りするときだって帽子をかぶっていた。
保育者はなるべく子ども全体を規制で縛らないで個を見つめている。三年前、松田道雄先生が亡くなったとき、娘の佐保さんから手紙をいただいた。先生は、著書『育児の百科』を人に渡されるときいつも、「育児とは人間の個性を見つけることです」と添え書きをされたそうだ。
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