また山の中にやってきてしまいました。ここは信州にあるぼくの小さな山小屋です。
裏山には暗く光る沼や、恐ろしげな壊れかかった小屋があります。
鹿が沼に水を飲みに来たり、突然猪が飛び出してきたり、水を飲みに来た狸が死んでいたりするのを目の当たりにすることもあります。
そんな自然のなかの山小屋なので、ぼくもここにやって来るとトンボ少年(いまやトンボ親父?)に戻ってしまうのです。
夏、ここにやってくると、トンボ親父は庭の木々の間に蚊帳を吊ります。
そしてトンボをいっぱい捕まえてきて、蚊帳の中に放します。
そして一晩、トンボと一緒に眠るのです。蚊帳にぶら下がって眠るトンボの寝顔は可愛いですよ。それを見ていて小さな子どもが自分も一緒に寝たいとせがみます。でも駄目。そのトンボの部屋にトンボと一緒に寝られるのは、ぼくから「トンボ少年」という称号を貰った子どもだけです。
「トンボ少年になりたかったら明日トンボとりに行こうねえ。トンボの持ち方を教えてやるからねえ。それが出来るようになったら、トンボ少年になれるからねえ」と、ぼくは厳かに申し渡すのです。
そしてトンボとりに一緒にくっついてきた子どもに、この絵本の通りのことを教えるのです。一匹ずつ、小さな指の間に挟ませます。
そして最後の九匹目のトンボを口にくわえられるようになったら「トンボ少年」の称号を授与!するのです。
「それじゃ、お前はガキ大将じゃないか」と言うのですか。そうかも知れませんねぇ。
でもね、この絵本のなかの子どもの真剣な顔をよく眺めて下さい。トンボと心が通じた子どもの嬉しそうな顔や喜びの表情をゆっくり眺めて下さいよ。
手で触りあわないと仲間になれないということもあるのです。
本当の仲間は手を取り合うものなんです。
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